制作事例 Highway Fee 第4回:空間をひとつにまとめる――ミッドルームというつなぎ役と、市販曲によるミックスリファレンス

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前回は、EDMドロップで主役がシンセリードへ交代する場面を取り上げました。

ベースにはダッキング、クラップには倍音付加、リードギターにはフレーズの頭だけを持ち上げるオートメーションを使い、フェーダーを大きく動かさずに、それぞれのパートの存在感を作っています。

ここまでで、ロックセクションとEDMドロップの各パートの配置はひとまず整いました。

しかし、ミックスでは個々の音が適切な位置に配置されているだけでは、完成とは言えません。

「Highway Fee」では、生録音と打ち込みのパートが混在しているため、それぞれの音が別々の空間で鳴っているように感じられる部分がありました。

そこで第4回では、リバーブを使って異なる音源をひとつの空間へまとめる工程を取り上げます。

さらに、その後に行った仮マスタリングと市販曲との比較、いわゆる「ミックスリファレンス」の工程についても解説します。

自分のミックスを聴き続けるだけでは気づきにくい問題を、外部の基準と比較することでどのように発見し、修正したのか。

今回は、ミックスを「作る工程」から「検証する工程」へ移していきます。

生録音と打ち込みが生む「空間のバラバラ感」

Akashic Music Production のスタッフのセッションの様子

何が起きていたか

「Highway Fee」には、生録音されたパートと打ち込みによるパートが混在しています。

それぞれの音を単体で確認すると、大きな問題があるようには聞こえません。

しかし、楽曲全体を通して聴くと、パートによって空間の感じ方が異なり、全体が少しバラバラに聞こえる状態がありました。

これは、単純に音量やEQだけの問題ではありません。

それぞれの音がどのような空間に存在しているように聞こえるかという「奥行き」の問題です。

生録音の音と打ち込みの音を、それぞれ異なるリバーブや空間処理で仕上げていくと、個々の音は自然でも、組み合わせたときに同じ場所で演奏しているように感じられなくなることがあります。

そこで今回は、すでに作られている個別の空間をすべて統一するのではなく、それらをつなぐための「中間的な空間」を追加しました。

ミッドルームを「つなぎ役」として使う

異なる空間をひとつにつなぐ

すでに楽曲内では、スモールルームやホールなどの空間系リバーブが使用されていました。

そのうえで、各パートからミッドルームへ微量のセンドを送る処理を追加しています。

ここでのミッドルームは、メインとなるリバーブとして音を響かせるためのものではありません。

異なる空間で鳴っているように感じられる楽器同士を、ひとつの空間へつなぐための「接着剤」のような役割を持たせています。

たとえば、ある音が小さな部屋にいるように聞こえ、別の音が大きなホールにいるように聞こえていたとしても、その両方にごく薄く共通した空間の成分を加えることで、完全に別々の場所で鳴っている印象を弱めることができます。

今回のミッドルームは、まさにそのための処理です。

「リバーブが聞こえる」手前までセンドを抑える

ミッドルームへのセンド量は、かなり控えめに設定しています。

判断基準は、リバーブをオンにしたときとオフにしたときで、切り替えて初めて「少し違う」と分かる程度です。

リバーブを単体で聞いたときに「空間が広がった」と明確に感じるほどの量ではありません。

あくまで、ミックス全体を聴いたときに、それぞれの音が同じ空間の中にいるように感じられることを優先しています。

これは、リバーブの存在を聞かせる処理ではなく、リバーブによって空間の一体感を作る処理です。

リバーブバスの高域を整理する

さらに、リバーブバス自体にハイカットを入れています。

リバーブの高域成分がそのまま残り続けると、残響が必要以上に目立ったり、ミックスの高域が散らかったりすることがあります。

そこで高域を整理し、ミッドルームが「空間の演出」として前に出すぎないようにしています。

結果

個別のリバーブによって作られていたそれぞれの空間を残しながら、全体として同じ空間に馴染んでいるようなまとまりを作ることができました。

ポイントは、すべての楽器に同じリバーブをかけたわけではないことです。

それぞれの音が持っている空間を維持しながら、共通する「中間的な空間」を薄く加えることで、全体をつないでいます。

仮マスタリングと市販曲との比較――ミックスリファレンス

まず仮マスタリングを行う

空間処理が終わったところで、いったん仮のマスタリングを行い、完成に近い状態まで持っていきます。

そのうえで、市販されている楽曲と自分たちのミックスを比較する工程に入りました。

今回、比較対象として使用したのは、Bring Me The Horizonの「Doomed」です。

このように、自分のミックスと既存の楽曲を比較しながらバランスを確認する方法を、一般に「ミックスリファレンス」と呼びます。

なぜ市販曲と比較するのか

ミックスを長時間続けていると、自分の作った音に耳が慣れていきます。

最初は気になっていた部分でも、何度も聴いているうちに、それが「問題」なのか「曲の個性」なのか判断しにくくなることがあります。

そこで、自分のミックスとは別の基準となる楽曲を聴くことで、相対的な違いを確認します。

今回の比較でも、制作中には気づきにくかった具体的な問題が見えてきました。

ドラムのタイトさが不足していた

市販曲と比較した結果、自分たちのミックスではドラムのタイトさが不足していることが分かりました。

これは、単にドラムの音量が小さいという問題ではありません。

ドラム全体のまとまりやアタックの出方を比較することで、「自分たちのミックスでは少し緩く聞こえる」という違いが明確になりました。

そこで、この結果を受けてドラムバスのコンプレッサーを調整しています。

具体的には、コンプレッサーのアタックとレシオを変更し、ドラム全体がよりタイトにまとまる方向へ修正しました。

ここで重要なのは、リファレンス曲の音をそのまま再現しようとしたわけではないことです。

比較によって自分たちのミックスの課題を発見し、その課題を解決するために処理を戻している点に意味があります。

ミックスリファレンスは「正解をコピーする」ためのものではない

Akashic Music Production の機材写真、CubaseとMac Studio、Yamaha HS-5、Novation LaunchPad 、Waves Ultimate

市販曲との比較というと、「プロの曲と同じ音にする」というイメージを持つ人もいるかもしれません。

しかし、今回のリファレンス比較で行ったことは、音をそのままコピーすることではありません。

重要なのは、自分のミックスだけを聴いていると気づきにくい差を発見することです。

今回であれば、

「ドラムのタイトさが足りない」

という具体的な課題を見つけることができました。

そして、その課題に対してドラムバスのコンプレッサーのアタックとレシオを調整しています。

つまり、リファレンス曲は「答え」ではなく、「自分のミックスを検証するための基準」として使っています。

この考え方は、ミックスを客観的に確認するうえで重要です。

なぜ「自分の耳だけで完成させない」のか

Akashic Music Production のスタッフ「Yuta Takahashi」のプロフィール写真

ここまでの工程では、自分たちの耳で一つひとつの判断を積み重ねてきました。

しかし、ミックスを完成させる段階では、外部の基準と比較する工程を入れることで、別の視点から問題を確認できます。

特に、長時間同じ曲を聴いていると、耳がそのミックスに適応してしまいます。

その状態では、低域が少し多い、高域が少し足りない、ドラムが少し緩いといった相対的な問題を見つけにくくなることがあります。

今回、市販曲との比較を行ったことで、制作中には見えにくかった「ドラムのタイトさ」という具体的な課題が浮かび上がりました。

その結果をもとに処理を修正し、ミックスをさらに完成形へ近づけています。

ミックスリファレンスは、単に「プロの音を目指す」ための工程ではありません。

自分の耳だけでは見つけにくい問題を発見するための、検証工程として使うことができます。

今回のミックスから分かること

Ikumi Magataの作業風景

第4回では、ミックスを「各トラックの音を作る作業」から「楽曲全体をひとつの作品として確認する作業」へ進めました。

空間については、すでに存在していたスモールルームやホールを置き換えるのではなく、ミッドルームを薄く加えることで、生録音と打ち込みのパートをつなぎました。

そして、仮マスタリング後には市販曲をリファレンスとして使用し、自分たちのミックスに不足していたドラムのタイトさを発見しています。

今回の工程を整理すると、

  • 生録音と打ち込みによる空間の違いを確認する
  • ミッドルームを薄く加えて各パートをつなぐ
  • リバーブバスの高域を整理する
  • 仮マスタリングを行う
  • 市販曲と比較してミックスの問題を探す
  • 発見した問題をドラムバスのコンプレッションで修正する

という流れになります。

ミックスは、処理を追加し続ければ完成するわけではありません。

ある段階まで作ったら、一度外部の基準と比較し、必要な部分だけを戻って修正する。

この「作る → 聴く → 比較する → 修正する」という循環も、ミックスを仕上げる重要な工程のひとつです。

次回へ

Akashic Music Production の機材写真、CubaseとMac Studio、Yamaha HS-5、Novation LaunchPad 、Waves Ultimate

ここまでで、空間の統一とリファレンス比較までが完了し、ミックスとしてはひとまず完成した状態になりました。

しかし、楽曲制作はここで終わりではありません。

最終的には、配信される音源として成立させるために、マスタリングという工程があります。

次回はいよいよ「Highway Fee」制作事例の最終回です。

配信プラットフォームの規約を踏まえながら、完成したミックスをどのように最終マスタリングへ持っていったのかを取り上げます。

ミックス段階で作った音のバランスを維持しながら、最終的な音源としてどのように仕上げていくのか。

「Highway Fee」の制作工程を、最後のマスタリングまで追っていきます。

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