ボーカルが埋もれるのはなぜ?プロが行うボーカルミックスの考え方

DTMミキシング

目次

ボーカルが埋もれる原因は?

Ikumi Magataの作業風景

ボーカルが埋もれるとき、多くの人は「ボーカルの音量が小さいから」と考えます。

しかし、ボーカルを大きくしても聞き取りにくい場合があります。

その主な原因は、ボーカルと他の楽器の音が重なっている「マスキング」です。

特にボーカルとギター、ピアノ、シンセなどは、音域が重なりやすいため、ボーカルの音量を上げるだけでは解決しないことがあります。

ボーカルを明瞭に聞かせるためには、

・ボーカル自体の音量
・他の楽器との音量バランス
・周波数の重なり
・左右の定位
・奥行き
・ダイナミクス

を総合的に確認する必要があります。

つまり、ボーカルミックスでは「ボーカルを大きくする」のではなく、「ボーカルが聞こえる環境を作る」ことが重要です。

ボーカルが聞こえないとき、まず音量を上げるべき?

Ikumi Magataの作業風景

ボーカルが埋もれている場合、最初に確認したいのは音量です。

しかし、いきなりボーカルのフェーダーを大きくするのではなく、他のパートとのバランスも確認しましょう。

例えば、ボーカルのフェーダーを2dB上げても、ギターやシンセがボーカルと同じ帯域で大きく鳴っていれば、ボーカルが明瞭になるとは限りません。

逆に、ギターを少し下げるだけでボーカルが自然に聞こえる場合があります。

このように、ボーカルを目立たせる方法は「ボーカルを大きくする」だけではありません。

ボーカルが埋もれる最大の原因のひとつ「マスキング」とは?

Ikumi Magataの作業風景

マスキングとは、複数の音が同時に鳴ることで、一方の音が聞き取りにくくなる現象です。

例えば、ボーカルとギターの中域が大きく重なっている場合、ボーカルの音量を十分に上げていても、歌詞が聞き取りにくくなることがあります。

この場合、ボーカルだけを加工するのではなく、ギター側の不要な帯域を整理することで改善できる場合があります。

同じことは、

・ボーカルとピアノ
・ボーカルとシンセ
・ボーカルとストリングス
・ボーカルとコーラス

などにも当てはまります。

重要なのは、「ボーカルの音を良くする」という発想だけではなく、「ボーカルと競合している音を整理する」という発想です。

ボーカルのEQはどう考える?

Akashic Music Production の機材写真、EQ

ボーカルのEQでは、最初から決まった周波数を大きくブーストしたりカットしたりするのではなく、実際の楽曲の中で何が問題になっているかを確認します。

ボーカル単体で聞くと良い音でも、オケと一緒に鳴らしたときに埋もれることがあります。

そのため、EQの判断は基本的に楽曲全体を聴きながら行います。

例えば、

・低域が多すぎて濁っている
・中低域が膨らんでいる
・中域が他の楽器と競合している
・高域が不足して明瞭度が低い
・歯擦音が強すぎる

など、問題によって必要な処理は変わります。

EQは「ボーカルを派手にするための処理」ではなく、ボーカルが楽曲の中で適切に機能するための調整として考えることが重要です。

ボーカルのEQを大きく削れば、埋もれなくなる?

Akashic Music Production のスタッフ「Yuta Takahashi」のプロフィール写真

必ずしもそうではありません。

ボーカルが埋もれているからといって、ボーカル側のEQを大きく削ることで解決しようとすると、ボーカルそのものの質感を失う場合があります。

特に、ボーカルの重要な帯域を大きくカットすると、明瞭度が下がったり、声の存在感がなくなったりすることがあります。

そのため、ボーカルの処理では、まず問題の原因を特定することが重要です。

ボーカルそのものに問題があるのか。

それとも、ギターやピアノ、シンセなどがボーカルの場所を占有しているのか。

この違いによって、適切な処理は大きく変わります。

ボーカルとギターがぶつかる場合はどうする?

Akashic Music Production の機材写真、TaylorのアコースティックギターとGibsonのFirebird

ボーカルとギターは、特に中域で競合しやすい組み合わせです。

例えば、ギターの音が厚く、ボーカルと同じような音域に集中している場合、ボーカルが聞こえにくくなることがあります。

この場合、いくつかの方法があります。

ギターの音量を調整する

最もシンプルな方法です。

ギターのフェーダーを少し下げるだけで、ボーカルが自然に前へ出てくる場合があります。

ギターの定位を調整する

ボーカルを中央に配置している場合、ギターを適切に左右へ配置することで、中央にボーカルのスペースを作ることができます。

ただし、左右に振れば必ず解決するわけではありません。

アレンジやジャンルによって、適切な定位は変わります。

ギターのEQを調整する

ボーカルとギターが競合している帯域を確認し、ギター側の必要性が低い部分を整理します。

このとき重要なのは、ギターの音を大きく変えてしまうことではありません。

ギターとして必要な音を残しながら、ボーカルと共存できる状態を作ります。

ボーカルにコンプレッサーをかければ前に出る?

Akashic Music Production の機材写真、CubaseとWindows、MIDIキーボード、エレキギター

コンプレッサーはボーカルミックスで非常に重要なツールですが、コンプレッサーを強くかければ必ずボーカルが前に出るわけではありません。

コンプレッサーには、ボーカルの音量変化を整理する役割があります。

歌の一部だけ小さくなってしまう場合や、逆に一部だけ飛び出してしまう場合には、コンプレッションによって安定した音量感を作ることができます。

しかし、マスキングが原因でボーカルが埋もれている場合、コンプレッサーだけでは問題を解決できません。

ボーカルのダイナミクスを整えたうえで、他の楽器との関係も整理する必要があります。

ボーカルミックスではオートメーションも重要

Ikumi Magataの作業風景

ボーカルを安定して聞かせるためには、コンプレッサーだけに頼らず、ボリュームオートメーションを使うことも重要です。

例えば、

・Aメロだけ少し小さい
・サビでボーカルがオケに埋もれる
・語尾だけ音量が下がる
・特定のフレーズだけ大きい

といった問題は、オートメーションによって細かく調整できます。

コンプレッサーですべてを均一にするのではなく、必要な部分を手動で調整することで、ボーカルの自然な表現を残しながら安定した音量感を作ることができます。

ボーカルを中央に置けば必ず聞こえる?

Ikumi Magataの作業風景

ボーカルは中央に配置されることが多いですが、中央に置けば自動的に聞きやすくなるわけではありません。

中央には、

・キック
・スネア
・ベース
・ピアノ
・シンセ
・その他のセンター成分

など、多くの重要な音が存在します。

そのため、中央にボーカルを配置する場合は、他のパートとの関係を整理する必要があります。

ボーカルを中央に置くことは、ボーカルを聞かせるための条件のひとつに過ぎません。

リバーブを増やすとボーカルが自然になる?

Ikumi Magataの作業風景

リバーブはボーカルに空間や奥行きを与えるために重要ですが、リバーブを増やしすぎるとボーカルが後ろに下がって聞こえる場合があります。

特に、ボーカルがすでに埋もれている状態でリバーブを追加すると、直接音と残響音の境界が曖昧になり、さらに聞き取りにくくなることがあります。

ボーカルを前に出したい場合は、

・リバーブの量
・リバーブの長さ
・プリディレイ
・リバーブのEQ
・ドライ音とのバランス

などを確認する必要があります。

リバーブは「ボーカルを良くするために足すもの」ではなく、楽曲の空間の中でボーカルをどこに配置するかを決めるための要素として考えると分かりやすくなります。

ボーカルミックスで最初に確認する7つのポイント

Ikumi Magataの作業風景

ボーカルが埋もれている場合は、次の順番で確認してみてください。

1. ボーカルの音量は適切か

まずはフェーダーで確認します。

2. 他の楽器が大きすぎないか

ボーカルを上げる前に、ギターやシンセなどの伴奏を少し下げて確認します。

3. マスキングが起きていないか

ボーカルと他の楽器の周波数が大きく重なっていないか確認します。

4. パンニングで整理できないか

ボーカルと他の楽器の定位を確認します。

5. ボーカルのダイナミクスは安定しているか

コンプレッサーだけでなく、必要に応じてボリュームオートメーションも使用します。

6. 空間系エフェクトが多すぎないか

リバーブやディレイによってボーカルが後ろに下がっていないか確認します。

7. そもそもアレンジに問題がないか

ミックスだけで解決しようとせず、ボーカルと同じ場所を占有している楽器がないか確認します。

ミックスだけでは解決できないボーカルの問題もある

Yukiの作業風景

ボーカルが埋もれる原因が、必ずしもミックスにあるとは限りません。

例えば、アレンジの段階でギター、ピアノ、シンセ、ストリングスなどが過密になっている場合、ミックスで無理に整理すると、それぞれの楽器の魅力を失ってしまう可能性があります。

この場合は、アレンジそのものを見直した方が良い場合があります。

例えば、ボーカルが歌っているフレーズではギターの音数を減らし、ボーカルが休む部分でギターを目立たせるなど、楽器の役割を整理する方法があります。

これはミックス技術だけではなく、編曲の考え方にも関係します。

そのため、プロの音楽制作では、ミックスだけを見るのではなく、作曲・編曲・演奏・音色選択まで含めて楽曲全体を考えることがあります。

Ikumi Magataの実体験|ボーカルを大きくする前に、周りの音を確認する

Ikumi Magataの作業風景

Akashic Music Production代表のIkumi Magataは、作編曲・Mixing・Masteringを専門とし、SKIO国際リミックスコンテストではIndie Dance部門3位、Mastering評価点1位、Mixing評価点3位の評価を獲得しています。

これまで数多くの楽曲を制作・ミックスしてきた経験から、ボーカルが埋もれているときに最初からボーカル側を大きく加工することは、できるだけ避けています。

私がまず確認するのは、ボーカルの周囲に何が鳴っているかです。

ボーカルが聞こえないからといって、ボーカルのEQを大きく削ったり、高域を大きくブーストしたり、コンプレッサーを強くかけたりする前に、ギターやピアノ、シンセなどがボーカルのスペースを占有していないかを確認します。

場合によっては、ボーカルにほとんど処理を加えなくても、伴奏側を少し整理するだけでボーカルが自然に聞こえるようになります。

この考え方は、私がミックスを行うときに特に大切にしているもののひとつです。

ボーカルのEQは「最大3dB程度の小さな調整」から考える

Akashic Music Production の機材写真、EQ

私自身、ボーカルのEQでは、必要以上に大きなカットやブーストを行わないことを基本的な考え方のひとつとしています。

例えば、ボーカルを良くしようとして大きくEQを動かすと、声そのものの自然な質感を変えてしまうことがあります。

そこで、まず小さなEQ調整で変化を確認します。

もちろん、すべてのボーカルに3dB以内の処理しか使えないという意味ではありません。

録音状態やマイク、歌唱、ジャンル、アレンジによって必要な処理は変わります。

重要なのは、数値を目的にするのではなく、「なぜその帯域を処理するのか」を明確にすることです。

大きな処理が必要になった場合は、ボーカルそのものではなく、他の楽器やアレンジに問題がないかを一度確認します。

ボーカルを目立たせるために、ボーカル以外を動かす

Akashic Music Production の機材写真、CubaseとWindows、MIDIキーボード、エレキギター

ボーカルミックスでは、ボーカルを加工することだけが解決策ではありません。

例えば、

「ボーカルを1dB上げる」

という方法だけでなく、

「ギターを1dB下げる」

という方法もあります。

また、

「ボーカルの高域をブーストする」

のではなく、

「ギターのボーカルと競合する帯域を少し整理する」

という方法もあります。

つまり、ボーカルを聞かせるために、ボーカル以外の音を動かすことがあります。

この考え方を持っていると、ボーカルに過剰な処理を加える必要がなくなり、自然な質感を保ちやすくなります。

ボーカルミックスで重要なのは「ボーカル単体の音」ではない

Ikumi Magataの作業風景

ボーカルミックスで最も重要なのは、ボーカル単体で素晴らしい音を作ることではありません。

楽曲全体の中で、ボーカルが必要な役割を果たしていることです。

ボーカルをソロで聴いて非常に良い音でも、オケに戻した瞬間に埋もれるなら、ミックスとしては十分ではありません。

逆に、ソロで聴いたときには少し地味に感じるボーカルでも、楽曲全体の中で歌詞が明瞭に聞こえ、感情や表現が伝わるのであれば、それは良いボーカルミックスと言えます。

ミックスでは、各トラックを単体で評価するのではなく、楽曲全体の中で評価することが重要です。

まとめ|ボーカルを聞かせるには、ボーカルだけを加工しない

Ikumi Magataの作業風景

ボーカルが埋もれる原因は、単純な音量不足だけではありません。

特に重要なのが、他の楽器とのマスキングです。

ボーカルを聞かせたい場合は、

・まず音量バランスを確認する
・伴奏が大きすぎないか確認する
・ギターやシンセなどとのマスキングを確認する
・パンニングで空間を整理する
・必要に応じてEQを使う
・コンプレッサーだけに頼らずオートメーションも使う
・リバーブやディレイをかけすぎない
・必要ならアレンジまで見直す

という順番で考えると、問題を見つけやすくなります。

そして最も重要なのは、

「ボーカルをどう加工するか?」

だけではなく、

「ボーカルが聞こえるためには、周りの音をどう整理すればいいか?」

と考えることです。

Akashic Music Productionでは、ボーカルだけを個別に処理するのではなく、アレンジや各楽器との関係まで考慮しながら、楽曲全体として自然にボーカルが聞こえるMixingを行っています。

目次